人口減少・少子高齢について考える

白馬村真木集落

人口減少に起因する形で経済活動が縮小し、市民の生活活動の中でいろいろな分野で影響を受けることは言われてきたことである。今までの地域振興や産業振興のシステムが通じなくなり、新しく独自な地域経済のシステムや地域振興の施策が必要となる。

2045年に予想される長野県の人口

平成14年(2005年)国立社会保障・人口問題研究所が発表した「都道府県別将来推計人口」によると、長野県の総人口は2005年をピークに2021年では200万人を割り込むという予測を発表した。実際2021年(令和3年)11月1日の長野県の総人口は2.019.521人(令和3年11月29日長野県企画振興部プレスリリースより)で予測数値の200万人は下回っていない。しかし長野県発表の数値から県内在住の外国人の数を引くと1.988.111人となり200万人を下回ってしまう。(外国人の数は31.410人)。ちなみに同じく長野県企画部の「長野県人口の現状と将来展望(案)」(平成27年8月5日)によると2060年の長野県の総人口は128.5万人、2100年は70.1万人(いづれも人口減少の特段の政策を講じない場合)という数字が発表されている。

出生率の向上は

お隣の国韓国では、2022年の合計特殊出生率は0.78で世界最低の数字を生み出した。日本の合計特殊出生率は1.26で、長野県の出生率は1.44(2021)。長野県は、2025までに1.84、2035年には2.07に持ち直すと想定している。かろうじて人口の現状を維持するには2.07の出生率が必要だが、思い切った施策をしないと人口増加は望めない。

人口置換水準2.07のマジック

人口が増加も減少もしない2.07の人口置換水準という数字があるが、0.07は何らかの理由で生存できない子供がこのくらいいるだろうという数を想定している。夫婦が2人のこどもを設けて初めて人口がプラマイゼロになるという話であるが、いくら婚姻率を上げても3人以上こどもを出産しないと人口は増加しない事実を見落としていないだろうか。現状経済的な理由で家庭を持てない若者がなんとか家庭を持ち、出産したとしても子供の数は1人かせいぜい2人で、3人以上は想像さえできないのではないか。夫婦の完結出生児数(夫婦が生涯で持つ子供の数)は1957年の3.60を最後に3.0を下回り2010年1.96、2015年は1.94となっている。実際子供が1人か2人の夫婦は72.6%でさらに増加傾向にあり、3人以上は21.8%で減少傾向にある(国立社会保障・人口問題研究所・夫婦調査の結果概要より)。国は結婚や出産を奨励する施策と同時に、完結出生児数を上げる施策も同時に必要ではないか。2.07を目標にしても日本の人口は増加には向かわない。

移住対策では人口減少数の数%しかカバーできない

全国の自治体では、移住者を獲得するために役所に移住専門の部署を配置し、かなりの人員と予算を掛けている。各自のアンテナショップでの移住説明会や都市部での移住者獲得のためのイベントも頻繁に行われている。長野県は移住希望者の移住先人気では常に上位にランクしているが、実際移住者の数はどうなのでしょうか。長野県下の市町村で最も移住者が多かったのは飯山市で2021年度の移住者は174人(飯山市移住定住推進課)で、長野県全体では2.960人(長野県発表)となっている。飯山市の2021年の人口減少数(自然減少+転出数)は306人で、長野県全体の人口減少数は14.599人となっています。それぞれ人口減少数に対する移住者数によるカバー率は、飯山市が約57%で長野県が約20%となっている。飯山市は人口減少問題にたいしては、長野県下の他自治体より以前から真剣に対応してきた実績がこのような高い数字に表れている。比較的移住先として有望な飯田市では9.5%という数字を示しているように他の自治体も移住者獲得には知恵を絞ってはいるが、日本全国が相手の獲得競争であり増々獲得の確率は小さくなることは確実で、カバー率が数パーセントの自治体も存在する。だがカバー率の高い自治体(移住者が多い自治体)でもカバー出来ない残りの80%、90%が確実に今後10年の間には地域にとって大きな打撃になる。

人口減少のなかでの地域をデザインする

「出生数の減少は最低でも100年は止まらない。今から少子化対策を講じても、人口減少が進むことを前提として、社会をどう機能させるかの対策は即座に求められる」(一般社団法人・人口減少対策総合研究所の河合雅司理事長)。日本の人口は、2022年9月時点で1億2500万人だが、標準的なシナリオで2053年には1億人を下回り、2110年には5300万人と半分以下に落ち込む(国立社会保障・人口問題研究所が2017年に発表)。村の数が日本で一番多い県は長野県(2022年1月時点で35村、2番目は北海道で21村、3番目は沖縄で19村)。市町村の規模は色々規定はあるが基本的には住民の数で決まる。市は人口5万人以上(昭和40年の市町村合併特例で3万人以上)、町は5千人から8千人(都道府県によって違う)、村の人口は特に法律で定められていない。村の中でも町の条件を満たしていながらも敢て村のままでいる自治体もある。長野県では白馬村ですが、全国では他に2村存在する。長野県下では、人口が市や町の条件を満たしていない自治体も存在する(いったん市や町になるとその要件が変わっても指定は変わらない)。村の人口は法律で定められていないので理論上は消滅するまで村は存続することが可能ですが、実際少子高齢化にさらされている村が何の施策を講じないと村の社会機能を維持することが不可能になる現実が目の前にある。地域の10年から15年先の人口と消滅する集落は当然予測ができるはず。為政者は有権者に向かって否定的な言葉は禁句かもしれないが、国の研究機関が50年先の日本の人口減少を予測している以上もはや逃げようがないことを真剣に受け止めなければいけない。市や町の人口規模ではまだ人口減少によるダメージは実感できていないが、村の中に点在する集落はすでに崩壊が始まっている。市街地での「スマートシティー」構想よりも優先して対策を講じるべきではないか。小さな集落崩壊対策を研究することで、人口減少問題の渦中にある日本の未来図が見えてくるかもしれない。

ここでは村を単位として考える。市や町は地域の人口減少が進んでも今後20年や30年は市や町の中心部では郊外からの流入者を支えるインフラや経済的余裕があるしその間に何か画期的なアイディアが生まれ、たちどころに問題解決に至るかもしれない。この様な思いは誰もが抱いているに違いない。だが村は多くの過疎地を抱えており、さらなる人の流失は避けられない状態に置かれ残された時間はない。消滅を避けたければこれ以上人口が減少しない地域づくりをデザインする、つまり地域維持に必要最小限の人口を割り出し、その人材が地域にいなければ域外から導入する。今どこでも行っている移住推進策と同じではないかと思われるかもしれないが全く違う。

デザインの進め方

まずは、村の10年先の人口を予測する。当然村全体の予測数も必要だが各集落の詳細の数を把握する。あと10年経過すると所謂「団塊の世代」から次の世代に完全に移行するタイミングで、今集落でいまだ健康で農地を耕し森や水源を守っているのが彼らで、その主役が交代する時期になる。高齢化率が50%とか60%とか裏を返せばあと10年後か20年後にはその年代層が消えるということ。

以下を実践するには、集落単位で協議会を立ち上げ、住民に実施する内容の告知と理解を得る事。住民の総意を協議会に集約していくことが重要であり、後の問題を最小化できる。

  • 村内全人口の把握。集落単位の人口と年齢、性別、職業、就業場所の把握。移住者のリストも作成(年齢、家族構成、職業)
  • 上記住民の10年後の居住を確認(確認できないときは、予測でも可。家を継ぐものがいるかどうかの確認が重要))
  • 10年後の村全体と集落の村民の予測を確定。
  • 調査の時点で10年後にはご存続不可能と判断される集落をリストアップ。
  • リストアップの集落の中に、村をデザインするにあたり将来重要になると思われる位置にある集落をリストアップ。そこに集中的にインフラ整備をし内外から人材をを呼び込む。その他の集落には新しく住人を増やさない。かといって人には居住の自由があるため住みたい人を拒む事はできないが、居住にとって条件の良くない地域はいずれ住まなくなる。
  • 村の維持可能な人口規模を算出する。
  • 一番重要な部分は、村の将来をどうデザインするか。進め方としては、集落のリスト作成の前か、作成中か、作成後に住民参加の中で議論し合意を得ておくことが成功のカギとなる。
  • デザインといっても、村に大企業を誘致することは不可能であり(ワーケーションなら歓迎)、資源としては農地・森林・水資源を含む自然環境しかない。ここからいかに付加価値の高いものを生み出すか。外からのアイディアではなく住民の合意から作りだす方が成功の確率が高い。そしてそのデザインを実現させるための人材を内外(海外も含め)から求める。
  • 現行の移住政策は、空き家があるから誰でも移住を希望する人は歓迎するという政策を採っているが、これだと現在も散見する地域での様々なトラブルを招く危険性が存在するので移住希望者には移住後に守らねばならない決め事を前もって提示し合意を得る。

キーワードは農地と森林

信州新町中牧集落
耕作放棄農地
大岡村
放棄が始まっている
信州新町森林
荒れた森林

集落の人口が減少することによって最も影響を受ける部分が農地と森林です。継承する者がいないと農地は放棄されることになる。それでも地域のNPOやJA等が中心となって継承者を探すか自ら耕作をすることによって農地が荒れる事をかろうじて防止しているのが現状です。しかし立地等の条件の悪い農地は継承者が見つからない。今後地域で人口が増加しないのであれば耕作放棄地が増大することを前提に思い切って放棄する農地と将来有望な農地選別をする必要があり、また少ない人手でも耕作可能なように優良農地の集約化も必要になる。また放棄した農地を景観上どの様に保全するのか。その地域のイメージづくりにも大きく関わり重要な課題となる。

森林整備は国も県も取り組んではいるが、今後人口減少によって地域の全体作業として行っていた森の整備が行われなくなると、消滅危機に瀕したすべての集落の森林整備を森林組合が請け負うことは不可能と思われる。人が住まず、住人が手入れしていた荒れる森を放置したままでは景観上や災害防止の面で大きな問題が生じる。人口減少によって整備ができない地域の森林だけを対象にした人材を確保する対策を今のうちから考える必要がある。

BUGPRESS地域振興SECTION